システム開発を行う際には、開発を担当する部門と実際にシステムを活用する実務部門がコミュニケーションをとりながら進めていくのが一般的です。しかし、当然のことながら実務部門はシステム開発のプロではないため、お互いのコミュニケーションがうまくとれず開発が難航するケースも。

そこで有効になるのが「プロトタイピング」です。プロトタイピングによって、開発部門と実務部門のコミュニケーションを円滑にできます。連載1回目となる今回の記事では、開発部門と実務部門との間ではどのような課題があるのか、なぜプロトタイピングが有効なのかを解説しましょう。

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開発部門と実務部門の認識のズレ

システム開発を行う際、実務部門と開発部門との間で綿密なコミュニケーションがとれないとさまざまな問題が起こります。例えば実務部門が「こんな機能が欲しい」と要求したにもかかわらず、開発段階で実装すべき機能が漏れていたり、ユーザーインターフェース(UI)のデザインや操作性、配置に問題があったりと、あらゆるケースが考えられます。

特にUIのデザインや操作性といった問題は、実務部門の日頃の業務との関連性が高く、開発部門が良かれと思って設計したものであっても、実務部門にとっては使いづらいシステムになることも少なくありません。

では、なぜこのようなズレが生じるのでしょうか。それは成果物がない状態で開発を進めなければならないからです。開発部門と実務部門それぞれの頭の中でシステムの仕様やUIをイメージしながらコミュニケーションをとるため、抽象的な表現を使わざるを得ません。「どの部分をどのような設計にするのか」を具体的にすり合わせられず、イメージするシステムに齟齬が生じます。

特にUIのデザインや操作性は口頭や文章だけではイメージが伝わりにくい傾向があります。たとえ十分なコミュニケーションがとれていたとしても、お互いに納得できるシステムを開発することは非常に難易度が高いでしょう。

部門間のコミュニケーションに役立つプロトタイピング

システム開発のコアな部分である機能実装については、機能要求書や要件定義で対応できます。しかしUIのデザインや操作性に関する内容は表現しづらいもの。

そこで役立つのが「プロトタイプ」です。プロトタイプとは日本語に直訳すると「原型」、「模範」という意味で、いわゆるサンプルのようなものです。そのプロトタイプを活用することを「プロトタイピング」と呼びます。

システム開発において、プロトタイプはいわば「たたき台」。例えば大きなビルやマンションなどを建設する場合、見本として建築模型を製作します。これは構造物の建主に対してプレゼンテーションを行うための模型ですが、システム開発におけるプロトタイプにも同様の役割があります。

プロトタイプの場合は、開発するシステムの動作やUIの構成、全体的なデザインなどをチェックする際に役立ちます。例えば開発部門に対して「ここの文字をもっと見やすく」といった抽象的な指示ではなく、プロトタイプをベースに「ここのフォントは12ptに変更」といった具体的な指示を出せるようになります。実務部門の担当者の中には「どこをどのように変更できるのか」がわからない人も多く、「このような変更の選択肢もある」と提示する意味でも、プロトタイプは有効でしょう。

このように、プロトタイプを介せば具体的な指示や依頼が出しやすく、開発部門と実務部門との間のスムーズなコミュニケーションにつながります。

全2回 ITシステムのサービス開発において問題解決に役立つ「プロトタイピング」とは

《第2回》システム開発の問題を解決するプロトタイピング

《第1回》 システム開発において開発部門と実務部門で起こる問題