先月末に、厚生労働省から、平成30年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。

同公表内容には、「脳・心臓疾患」に関する事案の労災補償状況と、「精神障害」に関する事案の労災補償状況の2種がありますが、今回は、後者の「精神障害」に関する事案の内容を中心に、一部を抜粋して、過去の発表データも踏まえてご紹介します。

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1.請求件数

精神障害に関する事案の労災補償の請求件数は毎年増加を続け、平成30年度は1,820件となり、10年前の平成20年度と比べると約2倍になっています。
一方、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償の請求件数は、平成30年度は877件で、10年前の平成20年度と比べほぼ同水準であり、労災補償の請求件数は、精神障害に関する事案の割合が増加傾向にあります。

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2.認定率

平成20年度から平成30年度の精神障害に関する事案の労災補償の「決定件数」「支給決定件数」「認定率」は、下表の通りです。
なお、「決定件数」は、当該年度内に「業務上」又は「業務外」の決定を行った件数(当該年度前に請求があったものも含まれます。)、「支給決定件数」は、「決定件数」のうち「業務上」と認定した件数、「認定率」は、「決定件数」において「業務上」と認定した「支給決定件数」の割合を示しています。

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「請求件数」の増加に伴い「決定件数」も増加していますが、「認定率」は、平成24年度は40%近い状況となったものの、平成30年度は10年前の平成20年度とほぼ同水準である30%強となっており、10件のうち3件を「業務上」として認定している状況となっています。

3.精神障害と時間外労働の関係

「業務上」として支給を決定した465件について、心理的負荷の評価期間における1ヵ月平均の時間外労働時間数を算出し区分したものは下表の通りです。
なお、「その他」は、「出来事による心理的負荷が極度であると認められる事案等、労働時間を調査するまでもなく明らかに業務上と判断した事案の件数」です。

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「その他」を除き、最も件数が多い区分は「20時間未満」となっています。また、1ヵ月平均80時間未満の区分は、「その他」を除く353件の約半数となっており、精神障害の約半数は、いわゆる過労死ラインといわれる月80時間を超える時間外労働が生じていないケースで認定されている状況となっています。

4.具体的な出来事

「業務上」として支給を決定した465件について、「精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために認定基準において一定の事象を類型化したもの」である「出来事」の「類型別件数」及び「具体的な出来事別件数の上位10項目」は、下記の通りです。

【出来事の類型別件数】

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【具体的な出来事別件数の上位10項目】

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類型別件数では、「仕事の量・質」に続いて多いのが、「事故や災害の体験」及び「対人関係」です。
また、具体的な出来事別件数では、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」及び「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」がそれぞれ69件で最多となっています。

上記の通り、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」件数が多い状況や、都道府県労働局への「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数が増えている状況を背景に、労働施策総合推進法の改正が審議され、パワーハラスメントに関する相談体制整備等の防止措置を義務付ける法案が本年5月29日に成立しました。
当該改正事項に関する施行日は、「公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(中小事業主は公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日までは努力義務)」とされており、まだ確定していませんが、大企業については来年4月から適用される見込みです。

※厚生労働省の発表内容の詳細は下記をご覧ください。

平成30年度「過労死等の労災補償状況」

※本記事のグラフ等は、厚生労働省から発表された各年度の労災補償状況の資料を基に加工しています。

執筆陣紹介

■岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。