アメリカでUberを利用し、日本と世界の変革に向けた取り組みの差を実感した夏野さんだが、その目は日本でも普及しているFree Wi-Fiに向けられる。

「日本はFree Wi-Fiがあまり普及していない!と思う外国人がとても多いんです。」

日本におけるUberやFree Wi-Fi、その根底にある問題とは。

「アメリカではショッピングに行けばどのお店に行ってもFree Wi-Fiがあるんだけど、スマホの画面に『Wi-Fiつなぎますか?』 っていうのが出てきて、それを承諾すればOKなんですよ。

日本みたいにパスワードとか要求されないし、どこに書いてあるのかな、なんて探さなくてもいいんです。

ところが日本では、警察庁と総務省によりWi-Fiはすべてパスワードをかけてください、という指導がなされています。

なおかつプロバイダー責任法があってプロバイダー側に責任が及ぶ可能性もあって、Free Wi-Fiの利用者が悪用しないように抑止するため、長い注意書きの最後に『同意』を押させる仕組みなどが多くのFree Wi-Fiに実装されています。

さらに警察庁が推奨しているのは、利用者にメールアドレスも登録させなさい、ということなのです。

インターネットの専門家から見ると、Free Wi-Fiにパスワードを入れさせるのはセキュリティのレベル上、ほとんど意味がないんです」

(Freeと明記しながら利用に不自由さを求める日本のFree Wi-Fiの現状について、夏野さんはセキュリティ対策におけるパスワード入力の無意味さを説く)

「多くのウェブブラウザがエンドツーエンドのSSL(暗号化通信)をかけてウェブサイトにアクセスしています。
もしもSSLをかけていないサイトがあった際に、たとえばChromeならば警告が出ます。そのくらいエンドツーエンドのセキュリティが確立されています。だからWi-Fi区間におけるハッキングのリスクというものは、昔と比べてものすごく低下しているんです。

特にクレジットカードの番号のような重要な個人情報を入力するサイトでは、間違いなくSSLがかかっています。SSLは手元のデバイスからサーバーまでの区間を通してかけられるのでWi-Fiのパスワードを設定する意味がますますないんです。」

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(そしてFree Wi-Fiにはパスワードだけではなく、メールアドレスの登録にも意味がないと夏野さんは分析する)

「メールアドレスを登録させても、そのメールアドレスに確認のメールを送っていないプロバイダーがほとんどです。適当に入れてもいいしフリーのメールアドレスもいくらでも取れるので、メールアドレスを入れさせてもセキュリティのレベル はまったく上がらないんです。

こうした状況は、専門家ならばみんなわかっていて、だからこそ世界中でFree Wi-Fiにパスワードをかけていないところがほとんどです。

なのに日本だけFree Wi-Fiにパスワードをかける事が前提になっていて、この使い勝手があまりにも悪いので、一部の地方自治体は、Free Wi-Fiにパスワードをかけないと頑張っていました。けれど警察から警告が入り、『Free Wi-Fiにパスワードをかけないのはケシカラン』ということが起こったのです。

結果どうなっているかというと、日本はWi-Fiのスポットはめちゃくちゃたくさんあるのに、外国人から見ると『Wi-Fiどこでも使えない』ってなり、『日本はFree Wi-Fiがあまり普及していない』と思う外国人がとても多いんです。多くの日本人も感じていると思うんですけどね」

(こうした現状は、利用者側に立たないインフラ整備が進んでしまった結果だ)

ルールを決める側のテクノロジーに関する情報がアップデートされていないんです。そもそもの話をするとセキュリティの専門家がルールを決めていないから『なんとなく危ない』とか『昔からそうだった』というのが、ずっと維持されて時代に合わせてルールが変わらないんです」

(Free Wi-Fiのパスワードを通して、過去からの継承を優先し新しいテクノロジーがもたらす利便性を社会に実装できない日本の現状を嘆く夏野さん)

UberもFree Wi-Fiも、その根底にある問題は「テクノロジーをもっと便利に使いたい!」と考える、人の意識であると分析する夏野さんは、ビジネスにおいても日本の多くの経営者が共通する課題を抱えている、と指摘する。

その課題に「なぜ、日本には孫さんしかいないのか?」と問いかける。

続きは次回のコラムをお楽しみに。