少子高齢化社会、労働人口の減少、年金の減少や社会保険料の値上げなどを背景に、
生活の充実度に個人の金融リテラシー(知識と判断力)が、大きな影響を与えています。

一部の企業では、これらの状況を鑑み、従業員に対して金融の基礎的な知識を身につける機会を提供し、ライフプランの充実とそれに向けて仕事に打ち込める環境づくりを支援する取り組みが行われています。一方で、これらの取り組みを実施するにあたり、総務・人事の教育担当者自身の金融知識不足が原因で、業員の積極的な参加意識を促せない教育プランになるケースも散見されます。

そこで本コラムでは、まずは企業の教育担当者向けに、総務・人事のための「わかりやすい金融基礎知識コラム」をシリーズでお届けます。従業員向け教育企画の一環として、ご参考になれば幸いです。

第4回
終わりのはじまり?!新NISAのやばすぎる改定内容

みなさんこんにちは。ファイナンシャルプランナーの菊池です。

年の瀬恒例の税制大綱でましたね。これが出ると各方面で解説記事や「いまからでも間に合う〇〇!」的な記事がニュースになりますよね。
インボイスや電子帳簿保存法については、二転三転しながら、ひとまずの決着をしていますが、様々な立場の人がいる一方で、納税の公平性についても議論された意味のある2022年だったように思います。先行して対応した皆さんからは不満の声が聞こえてくるのも、また事実ではありますが・・・・

さて令和五年税制大綱ですが、法人向けの内容については、他のコラムに譲るとして、個人向けの内容としては、贈与税・相続税に関わる規制緩和が引き締めの方向に向かって行く事が決まりました。概ね(下記①〜④)富裕層に対する優遇措置と指摘されている部分に対する引き締めになりますので、多くのサラリーマン家庭には大きなインパクトはないかもしれませんが、簡単に内容に触れておきます。本コラムのメインは⑤NISAの改変です。
 ①相続時精算課税制度の見直し
 ②生前贈与の加算期間延長
 ③教育資金の一括贈与にかかわる非課税措置の見直し
 ④結婚・子育て資金の一括贈与にかかわる非課税措置の見直し
 ⑤NISAの改変がやばすぎる
 ※エコカー減税は令和7年5月から要件変更がありますが、ここでは割愛します。
不動産の相続に当たっては、相続登記の義務化が令和6年4月1日から始まりますので、不動産を相続する方はご注意ください。

①相続時精算課税制度の見直し(少し緩和されました)

この制度は、資産の世代移動を推進するために、生前贈与を行うと、相続税を節約できるよ。という制度です。
2500万円までの資産を生前贈与することで、対象資産の贈与税を20%にすることができます。相続税は累進課税のため、5001万円以上の金額には30%、それ以上の金額で最大55%の税率が課されます。つまり次のような場合に有効な制度です。
・課税される遺産の総額が5001万以上ある場合(詳しくは相続税の税率|国税庁
ざっくり言うと、課税対象の資産総額が5001万円の時
全額相続税より、生前贈与+相続税ならば約422万節税できます。

・将来値上がりする資産がある
課税対象の資産評価は贈与時の金額なので、今後値上がりが期待される不動産や金融資産をお持ちの場合は、資産の評価額を相続時より小さくすることができます。

という制度ですが、変更点は、基礎控除が110万円追加されたこと、贈与された財産が災害等により被害を受けた場合は、相当額の控除が可能になった。という点で少し緩和されたと言えるでしょう。

②生前贈与の加算期間延長(かなり引き締めされました)

生前贈与を行う場合、暦年贈与という方法があります。毎年110万円までの贈与は課税対象にならないので、これを繰り返すことで、長期間に大きな金額を贈与することができました。(これが富裕層優遇と言われる最大の部分です)
現状でも、相続時より3年遡って、生前贈与金額を相続金額に含めるというルールがありますが、これが「3年」から「7年」に変更されました。今までは330万円しか相続課税されなかったのが、770万円まで相続課税されるようになったということで、かなり引き締められたと言えるでしょう。暦年相続から相続時精算課税制度へ変更される方も増えるのではないかと予想します。

③教育資金の一括贈与にかかわる非課税措置の見直し(継続)
④結婚・子育て資金の一括贈与にかかわる非課税措置の見直し(継続)

こちらの2案件については、特定の目的に対して贈与された金額については非課税とする。という制度になります。詳しくは直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税をご確認ください。年齢制限等ありますが、それぞれ最大1500万円、1000万円の贈与が非課税になります。もともと時限措置でしたので、期限の延長が主な変更です。

それでは本題の
 ⑤NISA(以降:新NISA)の改変がやばすぎる
について話していきましょう。
今回の改変をみて、思ったこと
 やらないと「損」としか言いようがない
 若ければ若いほどメリットが大きい
 新NISAの神々しさに、iDeCoがかすんで見える・・・かもしれない。
といった所です。

まずは現行制度のNISA(以降:現NISA)と新NISA をざっくりおさらいします。

・現NISA

投資活動に対して非課税優遇のある制度のことです。一般NISAとつみたてNISAは併用できません。



































制度区分 年齢制限 非課税対象 非課税限度 非課税期間
一般NISA 成人 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 毎年120万 最長5年
つみたてNISA 成人 一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益 毎年40万 最長20年
ジュニアNISA 未成年 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 毎年80万 最長5年

※一般NISA、つみたてNISA、は従来20歳以上と定義されていましたが、成人年齢引き下げにより、成人と記載しております。
※詳細は金融庁の各ページをご参照ください。一般NISAの概要 つみたてNISAの概要 ジュニアNISAの概要

・新NISA(概要は新しいNISAをご確認ください)

仕組みが1本化され、現NISAの一般NISAとつみたてNISAが「併用可能」となりました。
ジュニアNISAは当初予定通り2023年で新規購入ができなくなりますので、新NISAの枠組みには含まれません。新NISAは2024年以降の制度になります。




























投資枠区分 年齢制限 非課税対象 年間投資枠 非課税期間
つみたて投資枠 18歳以上 一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益 最大120万 無期限
成長投資枠 18歳以上 株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益(一部対象外商品あり) 最大240万 無期限

まずこの時点で、キラキラに輝いているのは非課税期間が「無期限」ということです。
現NISAは非課税期間が終わると、通常の金融商品と同じく、譲渡益には20%の課税が発生するのですが、新NISAはそれがありません。これは若い人には大きなメリットです。

表に記載していないもう一つのキラキラ輝くポイントは非課税限度額が1,800万あり、しかも商品を売却した場合、売却した金額が再利用可能になるという点です。
下記のように24年に10万円の商品を買うと、非課税限度額は1800-10で1790万になりますが、翌年に商品を売却すると、購入時の金額が非課税限度額にもどされます。つまり、金融商品を最大1800万円購入した分に含み益を保有できる仕組みとなります。

























売買年 購入金額 売却金額 非課税限度額まで
2024年 10万円 1,790万
2025年 15万(利益5万) 1,800万

ちなみにこの「1800万円」ですが、つみたて投資枠と成長投資枠の合算です。成長投資枠については1800万円の内数として、1200万円が最大値になります。ご注意ください。

一生涯の最大投資額「1,800万」と年間の最大投資額「120万」と「240万」というルールにより、つみたて投資だけを15年続けることもできますし、両枠を使って「360万」を毎年使って5年で最大投資額を使い切るような方法もできますので、ご本人の都合に合わせた柔軟な投資が可能になると思います。

現NISAは非課税期間が有限あるため、老後資金の形成にはiDeCoをおすすめするケースが多かったのですが、iDeCoは60歳まで取り崩しができないけど、所得税控除がある、受け取るときも税制優遇があるという特徴があります。
所得のない方(学生や主婦・夫)は減税する所得がありませんので、60歳まで取り崩し制限のないNISA一択ではないでしょうか。

資産形成の基本は、長期間の複利効果です。ぜひ若手社員へ資産形成のアドバイスをお願いします。ベテラン社員にはお子様へ資産形成のアドバイスを促すような取り組みもありかもしれませんね。

さてNISAの改変がやばいという事で、お話しました。確かに思い切った事をやったなと思いますが、私の見立てでは、終わりの始まりが来たのだろうと見ています。
つまり、年金の賦課方式が終わり、積み立て方式へ切り替えが始まっていくのでしょう。と思われます。もしも政府にそういった狙いがあるのならば、やらないと損ではなく、やらないと危険であるレベルかもしれません。

2級ファイナンシャル・プランニング技能士 菊池光純
※本コラムを通して、FPに相談・質問をしてみたい、こういうテーマを扱ってほしいというご要望があれば事務局までご連絡ください。