少子高齢化社会、労働人口の減少、年金の減少や社会保険料の値上げなどを背景に、
生活の充実度に個人の金融リテラシー(知識と判断力)が、大きな影響を与えています。

一部の企業では、これらの状況を鑑み、従業員に対して金融の基礎的な知識を身につける機会を提供し、ライフプランの充実とそれに向けて仕事に打ち込める環境づくりを支援する取り組みが行われています。一方で、これらの取り組みを実施するにあたり、総務・人事の教育担当者自身の金融知識不足が原因で、業員の積極的な参加意識を促せない教育プランになるケースも散見されます。

そこで本コラムでは、まずは企業の教育担当者向けに、総務・人事のための「わかりやすい金融基礎知識コラム」をシリーズでお届けます。従業員向け教育企画の一環として、ご参考になれば幸いです。

第3回
「所得」の理解は人事と従業員のエンゲージメントを深くする?!

みなさんこんにちは。ファイナンシャルプランナーの菊池です。

今年の年末調整も無事終わりましたでしょうか?頻繁に変更点があるので、業務ご担当者の方は従業員の皆様に変更内容をご連絡するのも大変ご苦労されているかと思います。

業務ご担当者の皆様からすれば、年末調整は大きなイベントであっても、記載内容に困ることはないと存じますが、従業員の方々は以外と適当に申請している実態がありますので、年末調整の記載内容は丁寧に説明していただいて、払う必要のない税金は還付されるようにご支援をお願いいたします。
例えば、新入社員で“「収入」と「所得」を明確に使い分けられる人いない説“とか、共働きのご家庭で”どちらが子供を扶養にするかによって節税額が異なる事を知らない“とか、”医療費控除の存在すら知らない“とか普通にあります。だからこそ、頼りになる業務担当者によってバックオフィスと従業員のエンゲージが深まると良いなぁと思う次第です。

ということで、今回は「所得(正確には課税所得)」の話です。

年末調整終わったのに、どゆこと?と思われた方も多いかもしれませんが、年末調整に向けて「所得」をコントロールするのは1月がスタートです。きちんとコントロールしてメリットを享受しましょう。

なぜ、所得の話かというと、理由は2つ
・日本の制度には所得を判断根拠にしている制度があるから。
 所得の金額によって、受けられる優遇制度が決まっているのです。
・所得税額が変わるから
 日本の所得税は所得が多くなると累進課税といって税率が高くなるのです。

「収入」とは、あなたが手に入れた金額の総額です。サラリーマンの場合は、社会保険料や税金、財形貯蓄等があれば天引きされた額を「手取り」として受け取りますが、色々引かれる前の金額が「収入」です。年間の総額が年収ですね。
「所得」とは「収入」から、給与所得控除を差し引いた金額です。
日本では収入源を10種類に区分し、それぞれに控除などの設定を設け、「所得」の算出を行います。様々な控除を適用して、最終的な「課税対象の所得」と算出し、これに所得税率をかけて、税額を出すことになります。課税対象が小さくなれば、税額も小さくなるという理屈です。給与所得のみのサラリーマンの場合、次のようになります。
 収入→会社がご本人に支払った金額(給与と賞与の総額)
 所得→収入ー給与所得控除
 課税所得→所得ー各種控除(下記の給与所得控除を除いたもの)
なので、年末調整の配偶者所得とは、配偶者の所得(収入ー給与所得控除)を記入します。収入でも課税所得でもありませんので注意してください。

サラリーマンの場合に関係しそうな控除は次のようなものになります。
  給与所得控除
  基礎控除
  配偶者控除(配偶者特別控除)
  扶養家族控除
  保険料控除(生命保険、介護保険、個人年金、地震保険)
  医療費控除(セルフメディケーション)
  小規模企業共済等掛金控除
  寄付控除(ふるさと納税ではありません)
その他に、雑損控除や配当所得控除、寡婦(寡夫)控除、ひとり親控除、障碍者控除がありますが、ここでは割愛します。

ちなみに住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は税額控除といって、税金を減額する制度なので、所得を控除するものではありません。ふるさと納税のワンストップ特例も税額控除ですね。

上記控除のうち、下記控除については、個人の意思で何かできるものではないので、特に対応はありません。(養子をもらって扶養控除を大きくするという事も可能ですが、子育てをする金額を考えれば、所得控除を目的に行う人はいないと思いますから・・・)ちなみに、引退されたご両親を扶養に加えるというケースもあると思います。この場合は、ご両親の収入条件等ありますので、ご注意頂くとともに、医療保険の高額療養制度における自己負担が高くなる場合もありますので、メリットとデメリットはしっかり確認をお願いします。

 給与所得控除
 基礎控除
 配偶者控除(配偶者特別控除)
 扶養家族控除

尚、共働きで配偶者控除がないよ。という方でも、産休に入ったとか、病気で休んだとか、一時的に離職していたという場合、年間の所得は少なくなっていますので、配偶者控除が適用できる場合があります。産休や傷病、失業期間にいただくお金がありますが、これは非課税になりますので所得として扱わなくて大丈夫です。

個人の意思で変更できるものについて、見ていきましょう。
・生命保険料控除(生命保険、介護保険、個人年金)

控除の額は支払った全額ではなく、支払った額により各保険毎に2万〜4万(新制度の場合)が控除されます。全部満額の場合12万円の所得控除になります。
実際どれくらい節税されるかというと、所得税率によります。
国税庁に所得税の税率が出ております。No.2260 所得税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
例えば課税所得(様々な控除したあとの最終的な所得金額)が400万だとすると、税率は20%です。
400万×0.20-427,500=372,500 だった納税額が、12万円控除されると
(400万-12万)×0.20-427,500=348,500 になり24,000円の節税になります。
つまり控除額×税率の分が節税になります。
節税するため、保険に入るのでは本末転倒ですので、保険商品については十分吟味して必要な商品を購入しましょう。

・医療費控除(セルフメディケーション)

医療費控除とセルフメディケーション制度は選択式になります。対象も異なりますので、まずは制度の概要を理解しましょう。
国税庁のパンフレットがこちらになります。医療費控除を受けられる方へ (nta.go.jp)
医療費控除は、治療を目的として支払った金額から、保険金等による補填を差し引いた金額について、1年間の合計額が10万円を超える場合に確定申告することで適用されます。控除額の最大金額は200万です。
具体的な例が 所得税目次一覧|国税庁 (nta.go.jp) こちらに出ておりますので、これは対象なの?というものがあれば、ご確認ください。歯列矯正の場合、子どもは対象になるけど、大人は対象外です。というのは見落としがちです。
一方セルフメディケーション制度は、自主的な健康維持を目的とした医薬品購入に関わるものです。厚生労働省の説明は セルフメディケーションの概要 (mhlw.go.jp) こちらになります。
対象の医薬品の購入が12,000円を超える部分について、最大88,000円までを確定申告により控除対象とすることができます。
対象の医薬品については次のリストをご確認ください。かなりの品目がありますので、医療機関へ行くよりも市販薬を買ってしまうという方は一読の価値ありだと思います。
対象のスイッチOTC (mhlw.go.jp)
対象の非スイッチOTC (mhlw.go.jp)

・小規模企業共済等掛金控除

こちらは企業型確定拠出年金(DC)を採用されている企業でマッチング拠出を行った金額。またはiDeCo(個人型確定拠出年金)に拠出した金額になります。
今回は所得のコラムなので、制度の説明は行いませんが、拠出した金額の全額を年末調整で控除できます。iDeCo(個人型確定拠出年金)の利用可否は、企業でどのような年金制度を行っているか?などにより異なりますので、iDeCo公式サイト 加入診断 等でご確認ください。
※マッチング拠出は会社で対応いただけると思うので、年末調整への記載は不要と思います。

・寄付控除

国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、寄付を行った場合に適用されます。政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金および公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて、税額控除を選択することができます。
例えば、「ユニセフへの募金」は所得控除と税額控除を選択することができます。
控除金額は寄付金から2,000円を引いた金額が寄付金控除金額になります。
ただし寄附金の額の合計額は所得金額の40%相当額が限度です。

さて、いろいろと所得控除を見てきましたが、所得控除額を大きくするために行動すべきか?については、所得による優遇制度を知っておく必要があります。もちろん税額は下がりますので、やれる範囲でやったほうが良い(年末調整だけではなく、必要に応じて確定申告をしましょう)ですが、優遇制度を受けるために所得を下げる意味があるのか?を確認していきましょう。現在の所得にかかわる優遇制度の多くは子育て世帯の支援策が多いようです。

①児童手当

制度の概要は児童手当制度のご案内: 子ども・子育て本部 - 内閣府 (cao.go.jp)をご確認ください。ページの下部に所得制限の記述があります。所得と扶養家族の人数により、支給の可否がきまります。ここで言う所得の求め方は次の通りです。横浜市のホームページ児童手当-所得の基準額について 横浜市 (yokohama.lg.jp) にわかりやすい図がありました。
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所得税と違って、保険料控除が含まれないこと等の違いがあります。ご注意ください。
所得制限ギリギリの方は「医療費控除」や「小規模企業共済掛金控除」を使うことで、児童手当をもらえるようになるかもしれません。

②幼児教育無償化

2019年から始まった制度です。保育園や幼稚園に通う3歳から5歳は無償(送迎費や食事代等は有償)になります。詳しくは内閣府の幼児教育・保育の無償化についてをご確認ください。つまり0〜2歳の保育料は有料のままで、所得によって料金が変わります。
例として東京都品川区の保育料をご確認ください。料金は各自治体で異なりますが、「区市町村民税所得割額」というもので、料金のピッチが決まっているのは他の自治体も同様です。つまり「所得割額」を小さくすることで、保育料を下げることができるということになります。所得割額は所得から所得控除した金額に10%を乗じて算出します。基本的な考え方は所得税の課税所得を算出する方法と同じですが、所得税にくらべて住民税の所得控除は全体的にすこし少額になります。また、寄付金については住民税の場合は税額控除になります。東京都のホームページになりますが、控除額は同じですので控除金額についてはこちらをご確認ください。
計算式は「所得割額 = (前年の総所得金額等 - 所得控除額) × 税率 - 税額控除額」です。税率については10%ですが、自治体によって都道府県税・市区町村税の割合が違いますので、ご興味があればこちらのサイトでご確認ください。自治体によっては、特定目的の財源確保のため税率が上乗せされている場合があります。それらについては各自治体のホームページ等でご確認ください。

所得割額については、所得控除を上手く使うことに加えて、税額控除を上手く使うことをおすすめします。所得控除は控除額×税率で節税となりますが、税額控除は控除額がそのまま節税額です。例えば品川区の例(D7区分)であれば、ふるさと納税で3万円の税額控除になれば、保育料のピッチが1段下がります。第一子であれば、月額が2500円安くなり、1年間で3万円の保育料を節約できます。
住民税の決定通知書に所得割額が記載されていますので、計算が面倒くさい方はそちらをご確認ください。役所で課税証明書を発行する事でも確認できますが、こちらは有料かと思います。

③小児医療費助成制度

子どもの医療費に関する助成制度ですが、対象年齢、助成内容、制度を受けるための所得制限などが自治体によって大きく変わります。
例えば大阪市は対象年齢が0〜18歳、東京世田谷区は0〜15歳ですし、助成内容も通院や入院の自己負担額が固定の場合や年齢によって自己負担額を変えたりする自治体もあります。そのうえで、所得制限を設ける場合や、年齢によって所得制限が変わる場合など、自治体の裁量により全く条件が異なります。所得制限がある場合、児童手当と同じ計算をしているようです。詳しくはお住まいの自治体へご確認ください。所得制限があって、所得制限が近い場合は児童手当と同じように対応をご検討ください。

④高等学校等就学支援金制度(高校無償化)

私学も含め高校の「実質」無償化が行われた制度です。所得制限があるので「無償化」という言い方には違和感がありますが・・・。制度の概要は文科省のページをご覧ください。制度のリーフレットにある通り「(市町村民税の課税所得額×6%)−(市町村民税の調整控除額)」を計算します。そして、それが30万4,200円未満であれば年収目安910万円未満となり、11万8,800円の支援金の対象になります。
「市町村民税の課税所得額」は所得割額で計算した内容になりますが、「市町村民税の調整控除額」については、マイナポータルで確認できます。住民税決定通知書の裏面に計算方法は書いてありますが、金額は記載されていません。
この他に、県や市でも独自の支援制度がある場合もあります。それらについても自治体へご確認ください。

これだけの制度で所得が判断基準として使われています。制度の対象者にギリギリなれない場合は、所得控除を上手く使って制度の対象者になりたいですよね。そのためにおすすめなのは「小規模企業共済等掛金控除」です。マッチング拠出やiDeCoに支払った全額が対象になりますし、将来の備えにもなります。注意点は原則60歳まで引き出すことができないので、必要以上に拠出しないことです。それだけは注意してください。
次点は「医療費控除」です。10万円を超える部分の控除になるため、少々ハードルは高いですが、歯科治療のようにある程度時間がかかる治療は年を超えないようにすることで、意外と費用がかさんでいるかもしれません。お子さんがいれば歯列矯正をやると10万超えるのは珍しくないですね。
節税という観点だけであれば、税額控除のふるさと納税も魅力的です。仕組みを知って、しっかりメリットを受け取りましょう。

2級ファイナンシャル・プランニング技能士 菊池光純
※本コラムを通して、FPに相談・質問をしてみたい、こういうテーマを扱ってほしいというご要望があれば事務局までご連絡ください。