少子高齢化社会、労働人口の減少、年金の減少や社会保険料の値上げなどを背景に、
生活の充実度に個人の金融リテラシー(知識と判断力)が、大きな影響を与えています。

一部の企業では、これらの状況を鑑み、従業員に対して金融の基礎的な知識を身につける機会を提供し、ライフプランの充実とそれに向けて仕事に打ち込める環境づくりを支援する取り組みが行われています。一方で、これらの取り組みを実施するにあたり、総務・人事の教育担当者自身の金融知識不足が原因で、業員の積極的な参加意識を促せない教育プランになるケースも散見されます。

そこで本コラムでは、まずは企業の教育担当者向けに、総務・人事のための「わかりやすい金融基礎知識コラム」をシリーズでお届けます。従業員向け教育企画の一環として、ご参考になれば幸いです。

第2回
ライフスタイルで変わる老後資金、いくら必要かを知る!

みなさんこんにちは。ファイナンシャルプランナーの菊池です。

円安、物価高、株安など経済的に良いニュースが聞かれなくなって長いですね。お金にかかわる事は常に変化していますので、私たちができることを少しずつ実践して、自分の資産を守っていきたいですね。さて今回は、老後資金と確定拠出年金についてお話します。

企業で働くみなさんにとって、老後資金といえば「年金」「貯蓄」が大きな割合かと思います。
年金は
 ・国民年金(1階部分)
 ・厚生年金保険(2階部分)
 ・企業年金(3階部分)
という構造で、「第2号被保険者等」という区分に属する我々サラリーマンや公務員等の方々は、国民年金と厚生年金保険には加入済みです。これに加え、各企業で退職金制度として企業年金を整備されていると思います。

バブルが崩壊する前は退職一時金として、年金ではなく退職金として給付している会社がほとんどでしたが、現在は年金制度へ移行が進んでいます。背景には金融環境の悪化や会計基準の変更がありました。これによって「退職一時金」「確定給付(DB)」「確定拠出(DC)」という大きく3つの制度へ移行されています。
厚生労働省の資料(企業年金・個人年金制度の現状等について (mhlw.go.jp))によりますと、確定拠出(DC)の制度を採用される企業が年々増加しているようです。ということもありまして、確定拠出(DC)と老後資金の話をさせていただきます。

確定拠出年金について

確定拠出年金について簡単に説明します。
確定拠出年金とは、「拠出する金額」が「確定」している年金制度。になります。「拠出する金額」を、用意された金融商品から皆さんが選択し、外部企業に運用を委託します。
「拠出する金額」は会社が払いますが、マッチング拠出という制度を使うと、拠出する金額を上乗せできます。ただし、上乗せ分を払うのはご本人になります。拠出する金額の上限は、会社とご本人の合計で月額5万5千円までと定められています(会社のルールによっては満額利用できない場合もあります)。
用意された金融商品は、運用を委託する会社により差があると思いますが、元本保証型(預金、保険)、投資信託型(株式、債権)になると思います。

この制度の最大の特徴は「運用益が非課税」「拠出金が所得控除」「給付時の税制優遇」があることです。
・運用益が非課税
金融商品は売却する際に得られた利益(売った時の金額-買った時の金額)について約20%の税金が課せられますが、この制度ではこれが発生しません。
長期間の積み立てがあれば、運用益が100万を超えることもあると思います。100万もらえるか80万もらえるか?の差はでかいですよね。

・拠出金が所得控除
これはマッチング拠出を使った場合になりますが、ご本人が支払った部分は「小規模企業共済等掛け金控除」として、年末調整で申告します。ご自身で記載しなくとも会社の処理で申告済みと思いますが、気になる方は給与明細や源泉徴収票をご確認ください。大きな額とは言えませんが、所得が減りますので、減税効果があります。
所得が減るというのは減税効果以外にもメリットがあります。それについては別の回でお話したいと思います。※ここを説明しない事業者や制度の社内担当者が多いんじゃないかなと思ってます。

・給付時の税制優遇がある
確定拠出年金は各社の規定にもよりますが、「一時金として」「年金として」「一時金と年金として」の3種類の給付方法があります。一時金の場合は「退職所得控除」。年金の場合は「公的年金控除」が適用されます。

確定拠出年金の金融商品運用のポイント

さて確定拠出年金では、どの金融商品で運用するのか?がとても重要です。これを検討するうえで「利回り」「リスク」「運用期間」を吟味していただきたいと思います。
お金が減るのは嫌だ!だから元本保証の商品しか運用しないよ!という方が非常に多いようです。リーマンショックやコロナショックで株価が急落するニュースを見ると、このような気持ちはわからなくもないのですが、これでは「資産を増やせない」です。利回りが低すぎます。

では、「利回り」「リスク」「運用期間」をどのように考えて自分に適した運用商品を選ぶのでしょうか?「利回り」と「リスク」は表裏一体の関係です。リスクが大きいからこそ、利回りがプラスにもマイナスにも大きく働きます。短期間でみるとインパクトがありますが、確定拠出年金は「運用期間」が長いという特徴があります。皆さんが選択できる金融商品のチャートを10年単位で見てください。凸凹はありますが、おおむね右肩上がりになっていると思います。確定拠出の運用は長期間ドルコスト平均法で資産を積み立てていきますから、こういった凸凹を吸収しながら資産を増やしていくのです。もちろん未来も同じように右肩上がりになる保証はありませんが、「運用期間」が長いという事がリスクヘッジになっているということです。

10年以上運用期間がある方は、リスクをとることを検討してみてはいかがでしょうか?残りの運用期間を見ながら、ハイリスクな商品からローリスクな商品へ移行していくことをお勧めします。

ファイナンシャルプランナーは、こうした定額の積み立てが最終的にいくらくらいになるか計算をするときに「年金終値係数」を使います。金融資産の利回りが3%あったとして、月4万円(年48万)を30年積み立てた場合を仮定して、係数をつかって計算すると、積み立てた額が1440万。作れた資産は約2283万になります。これが0.1%の利回りだと、資産は1461万です。かなり差が開きます。
※ちなみに投資信託系の金融商品だと3~7%くらいの利回りが過去の実績からみた期待値ではないかと思います。

老後資金について

前置きが長くなりましたが、すべては老後資金を作るための手段です。
老後資金はいくら用意すればいいのでしょうか?未来のことはわからないので、ほとんどを仮定で算出するしかありません。

①生活費

こちらは生活するうえで必要な金額になります。食費や光熱費、家賃などです。
これらは現在の生活費から、何が減るのかを考えながら想定します。
子供が自立すれば、養育費や食費は減るでしょうし、旅行など趣味にお金をつかいたいならその金額が増えるでしょう。あるいは自家用車をどうするか?ということもあるかもしれません。持ち家か賃貸でも大きく変わります。皆さんの生活レベルや生活意識、お住いの環境や地域でまったく異なってしまうので、予測は難しいかもしれません。私の場合はたぶん月に25万くらい必要なのではないか?と想定しています。

②医療費

現在はあまり支払っていなくても、歳をかさねれば必要になってきます。
厚生労働省の資料「医療保険に関する基礎資料~令和元年度の医療費等の状況~」の51ページ「ク 年齢階級別 1人当たり患者負担 [令和元年度(4~3ベース)]」によりますと、 一人当たり患者負担はだいたい年間9万円になっています。親の医療費を見てると、そんなことないよー。という場合は金額を増やしてください。

③いつまで生きるのか?

最大の不確定要素です。まったくわかりません。厚生労働省の人口動態統計を集計してみたところ、死亡人数のピークは男性が85歳、女性は92歳でした。とりあえずピーク+5歳まで生きると仮定します。
B8ffb8425293e966a98b3d5e25fbd009f4bfdc79
参考 政府統計の総合窓口(e-stat 「人口動態調査」 政府統計コード 00450011)

老後資金の算出方法

これで老後資金の算出をします。私は男性なので、60歳~90歳までを老後資金の対象とします。
①生活費 25万*12か月*31年=9300万(総額)
②医療費 9万*31年=279万(総額)
支出は①+②で約9600万です。
収入として年金がありますが、仮に年間200万(年金だよりをご確認ください)とすると26年(65~90歳)で5200万です。つまり4400万をなんらかの方法で確保する必要があるという事になります。ちょっと冷や汗がとまりませんね。意外と高額でした。確定拠出+自助努力で4400万です。

ここまでの数字がでたら、どのように何をするか?を考えていきます。
そこまでの資産形成は難しいと考えるならば、一番確実なのは、生活費を減らすこと。です。毎月5万減らすと31年で1860万円の削減です。不足している2540万(4400万-1860万)は確定拠出やお持ちの貯蓄など金融資産をみながら、なんとかできるかもしれないレベルになってくると思います。
※先ほど述べた、月4万を30年、利率3%で積み立てた場合の金額を覚えてますか?約2283万円です。
合わせて、70歳まで働くという選択肢もあると思います。毎月5万円の手取りでも10年で600万ですからね。そうなると何より大切なのは「健康」です。働くにしても働かないにしても医療費が抑えられるという副作用があります。

確定拠出やマッチング拠出をうまく使うことで、このような資産設計ができることを制度説明会で解説いただければ、企業と従業員のよりよいエンゲージメントができるのではないかと思います。

もちろん年金が200万ないよ。とか、親の遺産がそこそこ入る見込みとか、事情は様々なので、いくらあれば良いという断定はできませんが、こういったご心配事やライフプランニングをファイナンシャルプランナーに相談していただきたいなぁと思います。

2級ファイナンシャル・プランニング技能士 菊池光純
※本コラムを通して、FPに相談・質問をしてみたい、こういうテーマを扱ってほしいというご要望があれば事務局までご連絡ください。