現在厚生労働省では、働き方改革のひとつとして副業・兼業の普及促進を図っています。その一方で、各種法令は副業・兼業を踏まえた内容にはなっておらず、「複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、雇用保険及び社会保険の公平な制度の在り方、労働時間管理及び健康管理の在り方、労災保険給付の在り方について、検討を進める。」とされてきました。
このたび、労災保険給付についてその考え方が整理され、複数就業者に関する考え方が変更されることになりました。

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すべての勤務先の賃金額を基に給付額を決定

これまでは、複数の会社に勤務する従業員に労働災害が生じた場合、ケガや病気などの原因となる事故等があった会社から支払われている賃金額のみを基準に労災保険の給付額が決められていました。
このため、例えば、会社A会社Bの2つの会社に勤務する従業員が、会社Aの業務中に休業を要するケガをした場合、当該従業員はケガの原因となった会社Aにおいてだけでなく、会社Bにおいても就業できなくなりますが、業務災害で休業した場合に賃金を補填するために給付される「休業補償」は、会社Aから支払われる賃金額のみを基準に決定されており、十分な補償を受けることができない状況にありました。
そこで、複数就業者が安心して働くことができるよう、被災労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の塡補を図る観点から、複数の会社に勤務する複数就業者に業務災害が生じた場合は、当該災害が生じた会社から支払われる賃金だけでなく、その他の会社から支払われている賃金も合算した上で給付額が決定されるようになります。

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(出所)厚生労働省「複数の会社等に雇用されている労働者の方々への労災保険給付が変わります」より抜粋

すべての勤務先の負荷を総合評価

また、労災認定にあたっても、複数の会社に勤務している場合は、個別会社の負荷(労働時間やストレスなど)で評価して労災認定できない場合は、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定できるかどうかが判断されることになります。

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(出所)厚生労働省「複数の会社等に雇用されている労働者の方々への労災保険給付が変わります」より抜粋
上記は、2020年9月1日以降に業務災害によりケガ等をした場合の給付について対象となります。

執筆陣紹介

■岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「最新整理 働き方改革関連法と省令・ガイドラインの解説」(共著/日本加除出版株式会社)、「アルバイト・パートのトラブル相談Q&A」(共著/民事法研究会)他。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。