法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させて同種事案の防止を図ることを目的に、「

違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表」などの企業名を公表する仕組みがいくつかありますが、新たな仕組みが追加され、2019年1月25日にその手続きが公開されました。

追加された新たな仕組みは、不適切なデータが原因で労働基準法の改正が見送られるなど近年注目されている「裁量労働制」に関するものです。今回はその概要をご紹介します。

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対象となる企業

今回追加された新たな企業名公表の仕組みの対象となるのは、次の1から3のすべてに該当する企業となります。

1.複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業
→中小企業に該当する企業は、今回の企業名公表の対象とはなりません。
2.裁量労働制を導入している企業
3.「不適正な運用実態」が組織的に複数の事業場でみられ、相当数の労働者に裁量労働制を適用している企業

「不適正な運用実態」とは

上記3の「不適正な運用実態」とは、次のアからウのいずれにも該当する実態がみられることをいいます。

ア 裁量労働制の対象労働者の概ね3分の2以上について、対象業務に該当しない業務に従事していること。

イ 上記アに該当する労働者の概ね半数以上について、労働基準法32条・40条(労働時間)、35条(休日労働)又は37条(割増賃金)の違反が認められること。

ウ 上記イに該当する労働者の1人以上について、1ヵ月当たり100時間以上の時間外・休日労働が認められること。

労働基準法32条違反(例)時間外・休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせている。
労働基準法35条違反 (例)36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせている。
労働基準法37条違反 (例)法定の割増賃金を支払っていない。

企業名公表の流れ

企業名が公表される場合の流れは次の通りです。

【STEP1】 通常の監督指導で「不適正な運用実態」を確認する。
【STEP2】 企業の本社及び支社等に対する全社的な監督指導を実施する。なお、支社等は、主要な支社等で全社的な是正・改善状況を確認するために必要な範囲で実施する。
【STEP3】 不適正な運用実態が組織的に複数の事業場で認められ、裁量労働制を相当数の労働者に適用している場合は、当該企業の代表取締役等の経営トップを本社管轄の労働局へ呼び出し、局長より早期に法違反の是正に向けた全社的な取組を実施することを求める指導書を交付する。
【STEP4】 【STEP3】 の指導書の交付に加えて、下記を公表する。

●企業名
●裁量労働制の不適正な運用、それに伴う労働時間関係違反等の実態
●局長から指導書を交付したこと
●当該企業の早期是正に向けた取組方針

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類がありますが、例えば、専門業務型裁量労働制については、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として定められた19業務に従事している者にしか導入できない等のいくつかの制約があります。

裁量労働制の導入にあたっては、導入要件などを確認するとともに、導入後も不適正な運用がなされていないか点検する仕組みが必要だといえます。

※厚生労働省WEBサイトより

[専門業務型裁量労働制]

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html

[企画業務型裁量労働制]

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/kikaku/index.html

執筆陣紹介

■岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。