「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、現在50%に満たない年次有給休暇の取得率を2020年までに70%以上に引き上げることを目標に掲げ、特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取り組みを推進するとしています。
この目標達成に向けた取り組みのひとつが、働き方改革法に基づいて適用される「年次有給休暇の時季指定義務」となります。今回はその概要を確認します。

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年次有給休暇の時季指定とは?

年次有給休暇の取得時季を「使用者」が指定することをさします。
年次有給休暇は、これまでは原則として労働者が請求する時期に取得させるものとされてきましたが、取得率がなかなか上がらないため、年次有給休暇の取得時季を指定することを使用者の義務とし、確実に一定の日数の年次有給休暇を取得させる仕組みが導入されました。

対象となる労働者は?

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者が対象となります。
したがって、年10日以上の年次有給休暇が付与されていれば、正社員でなくても、パート・アルバイト等のいわゆる非正規社員も対象となります。また、いわゆる管理監督者もその対象に含まれます。

対象となる日数は?

時季指定の対象となるのは、付与されている年次有給休暇のうち年5日となります。年は原則として付与日から1年間を指します。
なお、本人からの請求を受けて取得した日数や計画的付与によって取得した日数がある場合は、その分も含めて年5日取得させればよく、この場合、使用者の時季指定の対象となるのは、5日からその日数を差し引いた日数となります。

時季指定にあたり注意すべき点は?

使用者が取得時季を指定するにあたっては、あらかじめ、労働者の意見を聴かなければなりません。なお、労働者の意見を踏まえてできる限り労働者の希望に沿った取得時季を指定するよう努める義務はありますが、労働者の希望通りの日を取得時季に指定しなければならないというものではありません。

いつから適用?

2019年4月から適用されます。
働き方改革法の中には、大企業と中小企業で改正法の施行日をずらし、中小企業の施行日を大企業より1年遅らせているものもありますが、「年次有給休暇の時季指定義務」については大企業・中小企業の施行日に違いはありません。したがって、「年次有給休暇の時季指定義務」は、来年2019年4月からすべての企業に適用されます。
但し、経過措置として、年次有給休暇の付与日が4月1日以外の場合は、4月1日後の最初の付与分から適用となります。

例)付与日が10月1日の労働者
→2019年10月1日に付与される分から時季指定義務の対象になります。

罰則は?

年次有給休暇の時季指定義務に違反した場合の罰則は、30万円以下の罰金です。

上記の他、法定以外のルールで年次有給休暇を付与する場合の取り扱いなど特例の考え方があります。また、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成して運用する必要があり、それを3年間保存しなければなりません。

執筆陣紹介

■岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。