今回は、「労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)」について、その内容を確認します。

契約社員やパート等の契約期間に定めのある有期労働契約者は、正社員をはじめとする契約期間に定めのない無期労働契約者に比べて、契約が更新されない“雇止め”の不安があることから合理的な労働条件の決定が行われにくく、処遇に対する不満も多く指摘されてきました。

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これらを背景に、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを明確化する必要があるとして、2013年4月の労働契約法改正の際に「20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)」が新たに追加されました。

具体的な条文は下記の通りですが、有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件が相違する場合は、 ①職務の内容、 ②職務の内容及び配置の変更の範囲、 ③その他の事情を考慮して不合理なものであってはならないというものです。

これを受けて、正規社員と非正規社員の労働条件の差異に関して訴訟が提起され、平成27年以降いくつかの判決が下されています。

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ハマキョウレックス事件は、正社員ドライバーと契約社員ドライバーの労働条件の差異等について争われた事案で、一審(大津地裁彦根支部 平27.9.16判決)と二審(大阪高裁、平28.7.26判決)で異なる判断がなされています。

一審では、正社員ドライバーと契約社員ドライバーについて、業務内容自体に大きな相違は認められないものの、正社員は出向も含め全国規模の異動の可能性があることや会社の中核を担う人材として登用される可能性があるのに比べて、契約社員は業務内容、労働時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されていないこと等から、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、一時金、定期昇給、退職金の支給に関する相違は、経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないとしました。但し、交通費の実費補填を目的に支給される通勤手当については、正社員が50,000円を限度として通勤距離に応じて(2km以内は一律5,000円)支給されるのに比べ、契約社員は3,000円を限度でしか支給されないのは不合理だとして、通勤手当についてのみ労働契約法20条に違反して無効としました。

一方、ニ審では、労働契約法20条所定の考慮事情(上記①②③)を踏まえて個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならないとし、各手当の主旨を踏まえて個別に検討がなされ、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当については不合理だとして、一審より広い範囲で労働契約法20条の違反を認めました。

長澤運輸事件は、正社員ドライバーと正社員を定年退職したあと再雇用された有期労働契約の嘱託社員ドライバーについての労働条件の差異等について争われた事件で、こちらも一審(東京地裁 平28.5.13判決)と二審(東京高裁 平28.11.2判決)で異なる判断がなされています。

一審では、正社員と嘱託社員の職務の内容や、当該職務の内容及び配置の変更の範囲にまったく違いがないにもかかわらず、賃金の額に関する労働条件に差異を設けることを正当と解すべき特段の事情は認められないとして、賃金の額の相違は不合理なものであり、労働契約法20条に違反するとしました。

一方、二審では、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として上記①②③を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①および②を例示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、①および②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解されるとしました。また、定年の前後で、職務内容やその変更の範囲等が同一である場合でも、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されていると考えられる等から、平均して2割強という賃金の減額率が不合理とはいえない等として、請求は棄却されました。

この2つの裁判の最高裁判決は来月6月1日に下される予定となっています。

当該判決は、今後、非正規社員の労働条件を決定する際に大きな影響を及ぼすものとなりますので、注視しておく必要があります。

執筆陣紹介

■岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。