ここからの20年の変化は、ここまでの20年よりも大きなものになります

ヒト・セッションIT×ビジネスパーソンでは、慶應義塾大学政策・メディア研究科の夏野剛特別招聘教授が登壇し、企業が求めるデジタル社会のビジネスパーソン像について講演されました。ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出され、取締役を務めるドワンゴでは、ニコニコ動画の黒字化を成し遂げたITビジネス界の第一人者が、デジタル革命に乗り遅れた日本を鋭く分析します。

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◯デジタル革命に乗り遅れた日本の低いGDP

講演の冒頭で、夏野氏は1996年の日本を振り返り、インターネット黎明期の歴史について触れます。
「ヤフーが誕生したのは1996年です。Amazonが1994年で、楽天は1997年、松井証券がインターネット取引を開始したのが1998年、グーグルがサーチエンジンを提供したのも1998年です。当時の携帯電話は二千万台ほどしか普及していません。PCの普及率も低く、インターネットもほとんど使えませんでした。そんな原始社会で、どうやって仕事をしていたのでしょうか。2000年以降に社会人になった方々は、想像もつかないのではないでしょうか」と夏野氏は1990年代の日本を説明します。
そこから約20年を経て、インターネットやスマートフォンの利用が当たり前になった現在では、世界的に見てもビジネスの生産性は飛躍的に高まっています。ところが、テクノロジーが飛躍的に発達した20年の間に「日本の名目GDPの成長率は、わずか0.8%だったのです」と夏野氏は指摘します。さらに「人類史上でも、この20年のテクノロジーの進化は、過去の200年や300年に匹敵するほど凄いものでした。それなのに日本は、それをまったく生産性の向上に結び付けられなかったのです」と畳み掛けます。
20年間で0.8%という低い生産性の向上率に対して疑問を抱く来場者に、日本とアメリカを比較した「名目GDP」の差が、どのくらい開いているのかを夏野氏は問いかけます。
用意された5つの選択肢は、1.20% 2.40% 3.70% 4.100% 5.130%、でした。
そして、多くの人たちが、ありえないと思った130%という正解をIMFのデータをもとに、夏野氏は示します。さらに、アメリカだけではなく、日本を除く多くの国が、この20年間にテクノロジーを使いこなしてGDPを向上させてきた事実を紹介します。

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なぜ、日本はデジタル革命に乗り遅れてしまったのかを夏野氏は「硬直化する社会システム」や「高齢化する人口構成」などに課題があると分析します。「1996年以降の停滞する日本経済は、人口も増えずに生産性も上がらず、規制がイノベーションを抑制して、UberやAirbnbのようなビジネスが生まれず、デジタルリテラシーの低いリーダー層に阻害されてきました。そして、改革を忌避する既得権益団体と、新陳代謝が起こりにくい企業風土に、産業再編の遅れといった社会システムの硬直化が、大きな原因となっています。さらに、老人の投票率が高いために現役世代の声は届かず、メディアも60歳代以上におもねる状況にあります」と夏野氏は問題の本質を指摘します。

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◯3つのIT革命を活かせない日本の体質

21世紀には3つのIT革命が進行し、多くの先進国はGDPの成長につながる効率化の改善や生産性の向上を実現してきました。それは、PCやインターネットの普及による「効率革命」に、Googleに代表される「検索革命」と、twitterやFacebookのような「ソーシャル革命」です。この3つのIT革命を、日本は活かせなかったと夏野氏は憂います。
まず第一の革命となる「効率革命」では、ビジネスのフロントラインがネットへ拡大し、コミュニケーションのスピードが飛躍的に向上したことで、社員一人あたりの生産性の劇的な進化が置きました。ところが「日本の大手企業では、『効率革命』によって業務が効率化されても、節約できた人件費を役に立たない管理職のサポートに使っています。そうして生産性があがらない構造になっているのです」と夏野氏は問題を分析します。
次の「検索革命」では、個人の情報収集能力が飛躍的に拡大し、研究開発プロセスの大革命が起こりました。結果として、にわか専門家が量産されることになり、専門家の定義が変わったのです。夏野氏は「20世紀までは、どこの会社に務めていて、どこの研究室や組織に属しているかが、個人の専門性を規定していました。ところが、世界中の研究論文や文献が検索できるようになり、パワーバランスが大きく変化したのです。こうした劇的な変化を認識しているかが、問われているのです」と指摘します。
そして「ソーシャル革命」では、個人の情報発信能力が飛躍的に拡大しました。夏野氏によれば「組織に依存しなくても、個人にやる気とその気があれば、いくらでも情報が調べられて、社会に訴えたいことがあれば、ソーシャルネットワークを通して拡散できる時代になった」のです。
3つのIT革命によって、組織と個人のパワーバランスは大きく変化し、社会で通用する人材の資質も変化しました。夏野氏は「100人のエリートよりも、1人のオタクが勝つ時代です。組織階層は無意味になり、企業は個人の能力をどのように最大化するかが問われています」と多様化を加速する社会に対して、どのようなビジネスパーソンが求められているのかを示唆します。

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◯AIによる第4のIT革命のインパクト

「ここからの20年の変化は、ここまでの20年よりも大きなものになります。第4のIT革命をもたらすAIは、ビッグデータと結びついたとき、爆発的なパワーを発揮します。AIは、2015年には人間を超えた画像認識能力を達成しています。超人的なデータ処理と深層学習により、これまでの3つのIT革命を大きく押し上げる革命が起こります。その結果、人と機械の境界は曖昧になり、未曾有の社会環境の変化が訪れます」と夏野氏は第4のIT革命のインパクトを語ります。
夏野氏の予測する「変化を強要される社会システム」では、組織構造はフラット化し、終身雇用や年功序列などの雇用形態は機能しなくなり、個人力を最大化する組織が必要となります。また、平均値の高い個人よりも、突き抜けた人材の活用が重要になり、多様性を前提とした教育システムの改革も求められます。それに伴い、リーダーの役割も変化します。それは、より重く辛いものとなり、利害を調整する立場から、率先垂範役を担うものとなります。

◯ふたつの「そうぞう」を社会の中心価値に

講演の最後に夏野氏は、日本の課題と展望について触れ、人口減や高齢化により縮小する国内市場に対して、日本が成長を続けていくためには、「残された唯二つの道」しかないと提言します。それは、過去にはなかったイノベーションを創りつづけることと、グローバル市場への大規模な進出です。
「幸いなことに、日本には個人金融資産や上場企業の内部留保など、余るほど資金があります。また、労働意欲の高い国民性があり、世界に影響を与える技術もあります。このカネ、ヒト、技術という三種の神器を活かして、創造(Creation)と想像(Imagination)というふたつの『そうぞう』を社会の中心価値に据えれば、日本は立て直せるのです。日本には凄いポテンシャルがあります。ここからの20年で100%成長できます」と夏野氏は提言します。

講演の後に、夏野氏と株式会社クレオソリューションサービスカンパニーマーケティング統括部プロモーション部桑本武司氏による対談が行われました。
対談では、事前に来場者から寄せられたアンケートの集計結果をもとに、夏野氏にデジタルトランスフォーメーションの現状や展望を語ってもらいました。

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まず、最初のアンケートでは、日常生活でのITに関する進化や、ビジネスで活用されるITの進化について、どういった項目に興味や関心が集まっているか紹介されました。

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この結果に対して、夏野氏は「日本では、アンケートを取ると、関心があるのと、実際に使っているのとでは、乖離があります。みなさんは、会社のテクノロジーの伝道師です。だから、ぜひスマートスピーカーを実際に使って、その便利さを体験してください。そこで使った知見を業務システムに反映してほしいのです」と提案します。

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次に、テクノロジーの変化が現実のビジネスにどのように影響を与えていくのか、2つのアンケート結果が紹介されました。

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RPAに代表される自動化に、AIやビッグデータなどで業務の効率化を推進し、ビジネスの変革に向けた発見や、生産性の向上を推進していくべきだと考えている現状が見受けられました。
この結果に対して夏野氏は「みなさんには、もっとクレバーになっていただいて、例えば、誰がどのくらい決済を貯めこんでいるかが可視化できるようなテクノロジーを見出していただきたいです。例えば、アプリの利用時間がわかるiPhoneのスクリーンタイムのように、決済が滞っている役員が誰なのかを社長がダッシュボードでわかるようなシステムを検討してもらいたいです。既存の業務システムに革新的なスペックを詰め込んでいくと、組織は確実に変わります。そして、みなさんが会社にとっての貢献者になります」と示唆します。

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続いて、ITの進化に寄せている期待について夏野氏は「これらの期待は、会社というよりも国家的な課題の解決に向けたものです。これらを解決していくためには、『どうしたら良くなるのか』という目的の理論から優先して、そのためにテクノロジーをどう使うのかを考えてもらいたいです。発想の転換を大切にしてください」と訴えます。

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最後に、新生クレオが掲げる共に成長していく「共創」のために、お客様とどのように協力していくべきか、夏野氏に訪ねました。
夏野氏は「ぜひ、一緒に悪巧みしてほしい。マネジメント層向けの『決裁の滞っている状況を見える化するシステムの開発』などは、みなさんからは言い出せないでしょう。けれども『クレオが標準実装しています』と説明できるように企めばいいのです。みなさんが感じている『もっと効率化できる。こうすれば良くなるはずだ』という機能をクレオと共に悪巧みして、会社や社会にとって、より良いシステムを『共創』していただきたいです」と締めくくりました。

取材・文 / 田中亘(ITジャーナリスト)

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