ヒトの時間はヒトでしかできないことにシフトさせる

シゴト・セッションIT×人事では、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本 隆 特任教授が登壇し、デジタルテクノロジーによって、人事業務がどのように進化するかについて講演されました。人事・人材マネジメントとテクノロジーが掛け合わさったHRテクノロジーの市場について、外資系グローバル企業での最先端技術の研究開発や組織マネジメントに携わられてきた岩本 隆 氏は、人事業務の将来について提言しています。

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◯国内のHRテクノロジー市場成長の経緯

岩本氏は、慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)で、2012年11月から現在に至るまで、累計で27法人と受託研究を推進し、3つの国家プロジェクトに参画しています。講演の冒頭では、その取り組みや経緯に触れつつ、国内のHRテクノロジーがどのように成長してきたのかを説明しました。

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研究委託企業からの依頼により、最初は企業を集めた「成長企業の人材マネジメント研究会」を行っていたが、人事にテクノロジーが活用されているという潮流があり、2013年に人事×テクノロジーの研究を開始したところ、研究会に参加する企業が増えてきたため、2015年4月に「HRテクノロジーコンソーシアム」が設立されました。そこから、HRテクノロジーが注目を集め、岩本氏は国際的な会議にも参加して、HRテクノロジーの研究と日本国内での普及に務めてきました。

◯「Society 5.0」や「第四次産業革命」に求められるHRテクノロジー

政府が掲げる「Society 5.0」や、世界中の産業界で起きている「第四次産業革命」の流れと変化を岩本氏は一枚のスライドで説明します。

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岩本氏は「Society 5.0が目指している超スマート社会を実現するためには、社会課題をテクノロジーで解決しなければなりません。リアルな事象をデジタル化して、AIで分析するテクノロジーが求められています」と話します。

また、内閣官房が発表している「未来投資戦略2018」から、「データ駆動型社会」への変革について触れ、実社会とサイバー空間との相互連関(Cyber Physical System)が、社会のあらゆる領域に実装され、大きな社会的価値を生み出していく社会が創造されると提言します。

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◯第四次産業革命を乗り切るための産業人材政策

これまで、テクノロジーとは関係がなかった事業領域や産業でも「あらゆる領域でテクノロジーの活用が進んでいます。まさにxTech(クロステック)していくことが大事です」と岩本氏は指摘します。
その一例として、食とテクノロジーを掛けあわせたFoodTechや、金融とテクノロジーを融合させるFinTechなどの用語を岩本氏は紹介します。

こうしたxTech(クロステック)が進む中、「第四次産業革命を乗り切るための産業人材政策が求められています」と岩本氏は、スキルエコノミーにシフトしていく社会が「目指すべき姿」を示します。

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岩本氏は「現状から何も対策を講じなければ、左のようになってしまいます。AIやロボットに代替される仕事から、人はテクノロジーを活用する役割を担っていかなければなりません」と提唱します。さらに「テクノロジーが進化すると、スマートフォンのように誰でも使えるようになります。テクノロジーが簡単に使えるようになると理解した上で、どのような新しい付加価値や効率化ができるのか。その知恵を出すことで、右のような新たな雇用やニーズが生まれるのです」と岩本氏は話します。

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◯「人づくり革命」&「生産性革命」に貢献するHRテクノロジー活用

講演の後半では、第4次安倍内閣の「新しい経済政策パッケージ」について触れ、「人づくり革命」と「生産性革命」は車の両輪であり、企業の人材育成や採用の重要性が語られました。岩本氏は、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」 で認定された数多くの講座を紹介し、企業の生産性を高めるための方程式を示します。

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この方程式に則って生産性を高めるためには、「要らないことを戦略的にやめてコストを下げ、ひとりひとりのスキルを高め、チームの力を上げ、投資によるイノベーションで付加価値を高め、さらに高生産性分野にシフトする全体最適が必要です」と岩本氏は指摘します。

続いて、世界のHRテクノロジービジネスの変遷が紹介されました。1980年代は「給与計算や労務管理などのERPが中心のHRテクノロジーが発展しました」と岩本氏は分析し、1990年代には社員のスキルやモチベーションなども評価するタレントマネジメントが利用されるようになり、2000年からは人事マネジメントが発達し、現在はチーム&ネットワークによる生産性の向上が追求されています。

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このように進化を続けるHRテクノロジーを活用するために、岩本氏は「データの分析と整理に、目的を持ったアウトプットが活用のポイントです」と説明します。

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さらに岩本氏の研究室では、企業と社員のエンゲージメントが業績にどのような影響を与えるのかをグラフ化して、エンゲージメントの高さが営業利益率や労働生産性と比例している相関関係を発見しています。

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講演の最後に岩本氏は「人を資本として管理する」取り組みが重要だと指摘し、「テクノロジーが代替できる人事業務が増えており、ヒトの時間はヒトでしかできないことにシフトさせ、人事業務を効率化し、“戦略人事”へシフトする」べきだと提言します。

そして、人事部門は”デジタルHR"として「デジタルテクノロジーをどう人材マネジメントに活用するかをプロデュースする」立場となり、これまでの間接部門から開発部門へと進化する必要性を訴えます。
さらに、「人事×データサイエンティスト×情報システムにより、デジタルHRが実行できる体制を作る」取り組みが重要となり、岩本氏は「HCMアプリケーションの最新動向を常時把握しましょう」と来場者にメッセージを送りました。

取材・文 / 田中亘(ITジャーナリスト)

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