人間がやるべきことは経営の意思決定に役立つ経営参謀としての仕事になります

シゴト・セッションIT×経理では、一般社団法人日本CFO協会の谷口 宏専務理事が、デジタルテクノロジーで変革期にある経理・財務部門の働き方について講演されました。デジタル時代により経理・財務部門にはどのようなパラダイムシフトが訪れるのか、CFO協会で集計したアンケートの結果なども交えながら、谷口氏は経理・財務人材の将来について提言しています。

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◯デジタルテクノロジーの進化が働き方を変える

講演の冒頭で谷口氏は、自身の銀行時代のエピソードに触れました。1990年代に起きたバブル景気の混乱と、その後に襲ってきた金融危機により、企業が銀行に頼らない経営を行うようになった時代の変遷について語り、2000年代に入ると、経営に貢献する財務の重要性が注目されてきたことから、CFO協会を設立したと、谷口氏は歴史を振り返りました。

谷口氏は「CFO協会を設立してから18年間の経験を皆様にお話できればと思います」と切り出し「若い人ほど、デジタル化に不安を感じているようです。その背景にあるのは『デジタル化は完全にファイナンス部門の役割を変えることになる』という外資系企業のCEOや、『2025年までに、全世界で1億人以上の知的労働者、もしくは1/3の仕事がRPA(ロボティクスによる業務自動化)によって置き換わる』と予測するコンサルタントの情報などを耳にしているからではないでしょうか」と問いかけます。

そして、CFO協会が2016年に「5年後の職場や働く姿」について集計したアンケートが紹介されました。そのアンケートによれば、51%の人が「業務がテクノロジーに置き換わっている」と思い、37%の人が「業務に人工知能が使われている」と予測していました。また、約半数の財務幹部が以下の項目について、数年先には現実になると回答しています。

・(会計業務の)スピード向上
・業務遂行体制の変化
・会計数値の品質向上、トレーサビリティ向上
・業務工数、必要人員の大幅な削減

続いて、2018年にCFO協会が2年前の結果がどうなったのかを調べるために実施したアンケートをもとに、「働き方改革の成果」を調べた結果、「残業時間削減」が第一位として実現されていました。一方で、必要だと思われていながらも「AI・RPAなどの技術導入」や「業務改革による業務量の削減」については、まだ道半ばの状況でした。こうした現状に対して「経理財務部門は今後どうあるべきか」という問いに対して、人材育成方法を変えて「人を変える」が70%、業務分掌そのものを大きく変える「仕事を変える」が55%という意見が寄せられました。さらに、経理財務部門に求められる理想的な業務としては、正確な決算を行う「経理財務は金庫番」の58%に対して、経営の判断や意思決定に関与する「経営参謀たるべし」が89%という高い意識が示されました。

これらの結果を受けて、谷口氏は「多くの仕事にデジタルテクノロジーが適用されていきます。人間がやるべきことは経営の意思決定に役立つ経営参謀としての仕事になります」と指摘します。

◯デジタルテクノロジーへの取り組みの状況

続いて、経理財務部門のデジタル化への取り組み状況が紹介されました。
谷口氏は「コンサルタント会社と協力して行った調査によれば、デジタル技術を適用した後に、CFO組織の役割として必要となる機能は、『経営への情報提供やCEOの参謀機能』になります。そのデジタル技術とは、具体的には、RPAやクラウドに特化型AIが注目されています」と説明します。
その一方で「RPAへの関心は高いのですが、実際には詳しく知る経理財務部門の方々は少ないのです」と谷口氏は補足し、アンケートの結果を紹介します。

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集計されたデータによれば、RPAへの取組状況については、「検討中や試験的な導入」が50%であり、「本格的な導入を完了している企業」は10%という現状です。RPAの導入を実践した企業では、34%が経理財務部門が主導し、23%が情報システム部門となっています。RPAの導入効果については、64%が「想定した水準程度」であり、11%が「期待以上」と回答しています。その成果が得られた具体的な業務領域は、38%が「レポーティングや報告書作成」であり、30%が「経費」と「単体決算作業」となっています。

谷口氏は「今後のRPA導入については、現状維持や中止という回答はゼロで、70%が拡張していくと回答し、30%は導入効果を見て今後も検討すると答えています。皆様、すごく前向きに取り組んでいます」と分析します。

◯RPAプロジェクトを開始しない理由

谷口氏は、RPAプロジェクトを開始していない企業の回答から、その理由について考察します。

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「野良RPAのように、導入後に管理できないロボットが乱立してしまうことを懸念したり、期待する効果が達成できないのではないか、という心配から、導入を進めていない実態があります」と谷口氏は説明します。

効果的なRPA導入を実現するためには、システムを導入する前に,
業務プロセスの見直しなども必要になります。

◯経営の意思決定に役立つ経理・財務人材の将来像

CFOに求められる重要な役割について、谷口氏は「アンケートからも、企業価値を最大化する投資マネジメントの徹底(68%)に、会計や財務オペレーションの効率化(42%)といった回答が得られています。CFOには経営に貢献する参謀としての働きが求められています」と話します。

これからの経理財務部門に求められる会計は、従来の財務会計や管理会計ではなく、資本コストと企業価値評価を的確にマネジメントするコーポレート・ファイナンスが重要になると、谷口氏は指摘し、日本の「グローバル管理会計原則」で翻訳された主な実務領域を紹介します。

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谷口氏は「大きなトレンドとして、過去から未来、短期から長期、社内から社外へ、会計から財務へと、流れが変わる途中にいる経理財務部門は、常にパラダイムシフトを意識して、将来への取り組みを推進するべきでしょう」と話します。

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最後に谷口氏は、デジタルネイティブの若い世代を指導する立場のCFOに向けて「経理・財務部門のミッションを定め、スタッフ個人の役割と期待する成果を明確にし、仕事のやり方には口を出さない方がいいのです。なぜなら、口を出すと上司の意図をくみとる茶坊主が増えるだけになり、やり方に口を出せば残業も減らないからです」と提言します。

そして「経理・財務の仕事は、確実にテクノロジーに置き換えられていきます。しかし、皆さんの会社の仕事が置き換えられるかはわかりません。みなさんの社長が変えてくれるとは思えません。そこで、積極的に皆さん自身が変えてこそ、次のステージが見えてきます。そして、『デジタルテクノロジーで経理・財務部門の働き方をどのように変えるか』を考えてください」と締めくくりました。

取材・文 / 田中亘(ITジャーナリスト)

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