1.はじめに

2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、「会社法」(平成17年法律第86号)第202条の2において、上場会社が取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められました。これを受けて、企業会計基準委員会は、「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」(以下「実務対応報告案」とする。)を公表し、2020年11月11日までコメントを募集しています。

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2.概要

・会社法第202条の2に基づき、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする取引に適用されます。

・実務対応報告案が対象としている取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引は、自社の株式を報酬として取締役等に付与する取引であり、ストック・オプションと類似する点が多く、費用認識や測定については「ストック・オプション等に関する会計基準(以下「ストック・オプション基準」という。)」を準用することが提案されています。

・他方、事前交付型と事後交付型が会社法上想定されており、株式が交付されるタイミングが異なることや、事前交付型においては株式の交付の後に株式を無償で取得することがある点に違いがみられます。したがって、それぞれの取引形態ごとに異なる会計処理を行うことを規定しています。

・また、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」と同適用指針の改正も検討されており、純資産の部に「株式引受権」という勘定科目を新たに追加することを提案しています。

3.会計処理について

事前交付型

事前交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い、権利確定条件が達成された場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引と定義されています。事前交付型については、株式の譲渡が制限され、対象となる勤務を終了するまでの間は、譲渡による経済的利益を享受することができません。ただし、株式の割当日に株主となることから(会社法第209条第4項)、割当日から権利確定までの間も配当請求権や議決権等の株主としての権利を有することになり、その点、ストック・オプションと異なることを考慮して会計処理が定められています。事前交付型の会計処理をまとめると、以下のようになります。
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≪会計処理の説明≫

■割当日
新株発行による場合は、割当日においては、資本を増加させる財産等の増加は生じていないため、割当日においては払込資本の増加を認識しませんが、新株発行による発行済株式総数の増加は認識します。他方、自己株式の処分による場合は、自己株式処分による自己株式数の減少を認識します。

■対象勤務期間の取り扱い
【新株発行の場合】
取締役等に対して新株を発行し、これに応じて企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。また、各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とされています。これらは、ストック・オプション基準に準じた取り扱いです。
期末において、年度通算で費用が計上される場合は対応する金額を資本金または資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合は対応する金額をその他資本剰余金から減額します。戻し入れが発生する場合、費用に対応する科目が変わる点に留意する必要があります。
【自己株式の処分の場合】
新株発行の場合と同様に各会計期間において報酬費用の認識と測定を行う処理が規定されていますが、対応する科目は「資本金または資本準備金」ではなく、「その他資本剰余金」とすることが規定されています。

■没収時の取り扱い(企業が無償で株式を取得した場合)
【新株発行の場合】
没収によって無償で株式を取得した場合は、自己株式の数のみの増加として処理します。(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第14項を準用)
【自己株式の処分の場合】
没収によって無償で株式を取得した場合は、自己株式等会計適用指針第14項の定めによらず、割当日に減額した自己株式の帳簿価額のうち、無償取得した部分に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額させます。

事後交付型

事後交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引を言います。権利確定条件が達成されない場合、取締役等は株式の発行等を受けることができず、株主としての権利を得ない点はストック・オプションと同様であることから、ストック・オプション基準とほぼ同様の会計処理が提案されています。相違点は費用に対応する科目として「株式引受権」が提案されている点です。主な会計処理は下記の通りですが、前述の通り、既存のストック・オプションと使用する勘定科目以外はほぼ同様の処理であることから、ここでは詳細な解説は割愛します。
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執筆陣紹介

仰星監査法人

仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。