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1.はじめに

2020年3月31日、企業会計基準委員会は、「収益認識に関する会計基準」の改正を公表しました。これを受けて、法務省より、同会計基準により求められる注記事項の内容を反映するため、会社計算規則の改正案が公表されています。

2.収益認識基準で求められる注記情報

早期適用のために公表された2018年の収益認識に関する会計基準では、一部の表示に関する事項及び注記事項の詳細決定が先送りされていましたが、今般、先送りされていた内容が決定されました。今回は決定した内容のうち、注記情報をとりあげます。2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以降、収益認識に関する会計基準を適用した会社は、下記の注記の内容が求められます。

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3.会社計算規則改正案

今般の会社計算規則では、2.の注記を会社法上の会計監査人設置会社でも注記するよう改正が提案されています。現状の会社計算規則と比較すると、下記の通りです。

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上記の表のうち、下線を付した部分が実質的な追加部分となります。特に、第115条の2 1号の「当該事業年度に認識した収益を,収益及びキャッシュ・フローの性質,金額,時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づいて区分をした場合における当該区分ごとの収益の額その他の事項」に関する注記は、開示書類作成実務に与える影響は大きいと考えられます。これは、収益認識基準では、「収益の分解情報」と呼ばれるものであり、主に上場会社が作成する有価証券報告書において開示される、売上にかかるセグメント情報に相当するものです。現状の改正案では、金融商品取引法監査の対象会社及び会社法上の会計監査人設置会社は、今回の注記を記載するよう求められています。すなわち、公認会計士や監査法人の監査を受けている会社は、上記の注記を開示する必要があります。今回は、「収益の分解情報」の注記の具体的な開示例をとりあげます。

4.収益の分解情報

前提条件は、下記の通りとします。

(1)A社は、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」に従って、消費者製品、輸送及びエネルギーの各セグメントについて報告している。
(2)A社は、投資家向けの説明資料を作成する際に、収益を、①主たる地域市場、②主要な財又はサービスのライン及び③収益認識の時期(一時点で移転される財又は一定の期間にわたり移転されるサービス)に分解している。A社は、投資家向けの説明資料で使用している区分を、収益を分解する区分(収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分)として使用できると判断した。

注記例(数値は所与)
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上記設例では、セグメント情報をすでに開示している有価証券報告書提出会社が想定されています。多くの有価証券報告書提出会社では、既存のセグメント情報の区分をもとに、収益の分解情報に関する注記を作成することになると考えられます。他方、現状の会社計算規則では、セグメント情報の記載は求められていませんが、この改正案が施行された場合、有価証券報告書提出会社以外においても、収益をどのように区分するか検討し、さらに、その情報を正確に把握する体制を構築することが求められるため、開示実務に大きな影響があると考えられます。
なお、今回取り上げた会社計算規則の改正案は、現在パブリックコメントの募集が終了し、実際に施行されるかが検討されている段階であるため、確定案ではないことを念のため申し添えます。

5.参考

改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表
会社計算規則の一部を改正する省令案に関する概要説明
会社計算規則改正案新旧対照表

執筆陣紹介

仰星監査法人

仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。