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きっかけはクラウド、あるいはその前のERPでしょうか。いずれにせよ、ビジネスシーンに何か新しいテクノロジーが登場するたびに、決まってIT部門不要論が持ち上がります。しかし本当に、もう企業にIT部門は必要ないのでしょうか?

蔓延する勘違いとITに関する知識不足

2019年10月、まさにそのIT部門の必要性に関わるニュースがネット上を駆け抜けました。ガートナージャパン社から、「9割のIT部門が経営トップからビジネス拡大に寄与していないとみられている」との調査結果が発表されたのです。回答者は日本企業のIT部門の部長職以上。内訳を見ると、「IT部門はビジネスをバックアップはするが、その貢献度は高いとは言えない」(19%)と「コスト・センターと見なされ、コスト削減要求が多い」(22%)が合わせて41%。ネガティブな回答がほぼ半数を占めています。

回答者の属性を考えると、その自虐性がいささか心配にもなりますが、とはいえ、他の部門担当者に同じ調査を実施しても、結果が大きく変わることはなかったのではないでしょうか。特に事業部門の担当者から、「保守的」「奥の院的存在」「業務システムやITインフラを導入するだけの仕事」「『セキュリティが』『コンプライアンスが』と、出来ない理由を並べてビジネスアイデアを却下する部署」など、IT部門に対してネガティブな印象を持っているという話を耳にすることもあるからです。

とはいえ、印象はあくまで印象であって、事実ではありません。先のアンケート結果にしても、単に「自社のIT部門がそうだ」と公表しているだけであって、IT部門本来の価値とは一切無関係のはずです。

そもそも、実際に経営トップ、それも自社を成長に導いている優秀な経営トップに同じ質問をした場合、現在のビジネスにおけるITの価値を認識していれば、恥かしげもなく「ビジネスに貢献していない」なんて答えられるはずはないでしょう。まあ、「USBなんて知らない、パソコンも使えない」と公言する方がIT政策担当大臣を務めた国であれば、あり得る話かもしれませんが。

この際なので率直に言っておくべきかもしれません、何より、こうしたIT部門不要論こそ不要で不毛である、と。

そのほとんどは、単なる勘違いか、IT及びIT部門に関する知識不足から生じているものでしょう。担当者が肩身の狭い思いをする必要などまったくありません。IT部門は今後も企業の成長に必要不可欠ですし、事実、ビジネスに貢献しているIT部門はいくつも存在します。 例えば、次に紹介する「すごい」IT部門はご存じでしょうか?

たったの4人で自社の急成長に貢献するIT部門

長野県軽井沢に、15年連続で増収増益を達成し、業界トップシェアを誇るクラフトビールメーカーがあります。創業してまだ四半世紀ほどのベンチャー企業ですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって大手ビール会社が軒並み大打撃を受けた今年4月にも、過去最高の月間売上を達成しています。

卸売販売だけでなくECにも注力しながら、IT部門はたったの4人。にもかかわらず、インフラの整備・運用から収益に直結するシステム施策まで、つまり「守りのIT」と「攻めのIT]を両立させて自社の躍進に貢献しているのです。

そのIT部門のモットーが「データこそが資産」。過去、各部署が個別に担当していた顧客のWeb行動や購買履歴のデータ管理を一元化し、他部署と密接に連携しながらマーケティングや販促活動に活用することに。その結果、顧客アプローチの精度が飛躍的に向上し、売上だけでなく顧客参加型イベントに数千人の顧客が集まるなど、顧客ロイヤリティの向上にも成果があらわれています。

「守り」に関しても、いわゆる運用・保守だけではありません。自社独自の在庫管理システムを作成し、月間約250時間にも及んでいた在庫管理部門の残業時間をゼロにするなど、生産性向上にもつなげています。

少人数でこのような活躍を可能にした要因として、「オンプレミスではなくSaaS型クラウドサービスを優先活用」「モノリシック型ではなくマイクロサービス方式」といった戦略があるそうですが、それ以上に、同社のフラットな組織体制と「究極の顧客志向」を掲げるカルチャー(組織文化)の影響が強いようにも思われます。

当然ながら、IT部門も企業の一部。担当者がどんなに優れたスキルを持っていても、縦割りや事なかれ主義が浸透している組織では、自発的で部署横断的な協働・支援は望めないからです。言い換えるとそれは、IT部門に対する不満は、実は自社の体制面や雰囲気などに対する不満を反映したケールも多いということでもあります。

続いて次回は、大手企業の「すごい」IT部門を紹介します。

全2回「すごいIT部門」を見よ~IT部門不要論に反論する~

《連載:第2回》 社内でIT部門の存在感を向上させる方法

《連載:第1回》 「IT部門不要論」こそ不要だ