近年、耳にすることが増えてきたキーワードが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。働き方改革が進むなか、デジタルトランスフォーメーションは非常に重要な役割を果たすものですが、その意味を正しく理解している方は決して多くありません。また、デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションという言葉を混同して理解しているケースも見られます。

今回は、そもそもデジタルトランスフォーメーションとは何なのか、デジタライゼーションとは何が違うのか、さらにはデジタルトランスフォーメーションが進んでいる背景について深く掘り下げていきます。

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デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションの定義

デジタルトランスフォーメーションとは、「テクノロジーによって生活や労働、会社の経営などを根本から変革すること」を指します。対してデジタライゼーションは、「現在あるモノや仕組みをテクノロジーによって進化させたり付加価値を与えたりするもの(デジタル化)」と定義されます。

とりわけデジタルトランスフォーメーションという言葉は、単なる新規事業の開拓やITによる業務効率化などの意味で使用されるケースも散見されます。しかし、正しくは会社の仕組みや事業、働き方そのものを根底から見直し、その実現のためにテクノロジーを活用するという考え方です。そのため、デジタルトランスフォーメーションは現場で取り組むのではなく、より上位のレイヤーである経営層が取り組むべき課題でもあるのです。

一方でデジタライゼーションの意義とは、生産性を向上させることにあります。業務をデジタル化することによって効率アップを実現し、例えば経費精算や勤怠管理のようなノンコア業務の時間を減らすことが求められます。業務プロセスなどを見直し、業務効率化を図ることによって業務を削減し、付加価値を生むコア業務の時間を増やすことにつながります。

深刻な人手不足が続き労働力の減少が顕著になっている現在、デジタルトランスフォーメーションによるビジネスモデルの刷新とデジタライゼーションによる業務効率化は、早急に実現しなければならない大きな課題でもあります。

DX実現により2030年にはGDP130兆円超えの押し上げを目指す

経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート」では、デジタルトランスフォーメーションの必要性と現状に対する危機管理が説明されています。

さまざまな企業でITを活用したシステムが活用されていますが、その多くが部門ごとに構築されておりブラックボックス化している現状があります。また、過剰なカスタマイズを繰り返した結果、複雑化・レガシー化したシステムを見直さないと、市場の変化に柔軟に対応できるビジネスモデルを構築することもできません。

IT技術者の人手不足も深刻で、この先さらに拡大していくことが予想されています。最悪の場合、将来的に技術的課題を解決できる人材を確保できない企業が続出し、業務を支えるITシステムの運用が破綻する可能性もあります。さらには災害や事故、セキュリティーリスクにも対応できず、データ流出や滅失の危険性も指摘されています。

現在の複雑化・ブラックボックス化した既存システムを刷新しない限り、世界のデジタル化から取り残されてしまうと警鐘を鳴らすのが「2025年の崖」問題です。5G実用化が見込まれる2020年からの第4次産業革命の中、デジタルトランスフォーメーションの波に乗り遅れてしまうと2025年以降、年間で最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があると示唆されています。

DXレポートではこの問題を解決するために、DX実現シナリオも提示して説明しています。既存システムを見える化しブラックボックス化を解消するとともに、システムの刷新計画なども策定し、できるものからDX実現に向けて取り組んでいく計画案が提示されています。あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーションを実現することで、2030年には実質GDP130兆円超の押し上げを目指しています。

次回では、企業が抱えるどのような問題を解決できるのか、DXとデジタライゼーションそれぞれの事例を挙げながら解説していきます。

全2回 先端技術(AI/IoT)で実現する経営改革(デジタルトランスフォーメーション」の必要性

《第2回》デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションのどちらが有効?

《第1回》デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションの違いとは?