IT化の波はとどまることを知らず、業務のあらゆる側面でITの知見が重要となってくる一方で、少子高齢化による労働人口減少の影響もあり、企業は十分なIT人材を確保できていないという側面も見られます。ここではまず企業を取り巻くIT人材の動向について見ていきたいと思います。

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ユーザー企業のIT人材を取り巻く構造的な問題

昨今、あらゆる業界で「人手不足」が叫ばれていますが、IT人材も例外ではありません。2016年の経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2020年には約4.8万人が不足するという深刻さです。特に大きな問題となっているのは、ビッグデータ、人工知能(AI)、IoT、業務自動化(RPA)などの先端IT分野の人材不足です。

その意味ではIT人材の不足は、単に「量」が足りないというだけでなく、「質」が満たされていないことが問題の本質と見ることもできそうです。ちなみにこの問題は、ソフトウェア開発やSIなどを生業とするいわゆるIT業界だけに限ったものではなく、ユーザー企業においても同様に高いハードルとなっています。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では、ユーザー企業のIT人材を「価値創造型(ユーザー企業の事業の価値創造を目的としたIT活用/要件が不確実、スピード感を重視、主にアジャイル型で開発)」と「課題解決型(ユーザー企業の既存事業の効率化やコスト削減を目的としたIT活用/要件定義が明確、確実性を重視、主にウォーターフォール型で開発)」という大きく2つの特性で分けて「質」の不足感を調査し、その結果を「IT 人材白書2018」で公表しています。

それによると、どちらのタイプも「大幅に不足している」と「やや不足している」と回答した割合は80%台に達しており、質の不足感が浮き彫りになっています。そして「大幅に不足している」と回答した企業の割合を見てみると、さらに鮮明に状況が明らかになります。課題解決型は21.1%なのですが、価値創造型は44.5%とダブルスコアを超えて差が開いているのです。

与えられた課題はそれなりに解くことができるが、新しく物事を作り出していく力を持った人材が不足している――。もちろん、IT投資やIT活用が後者を重視するようになったのが比較的近年のことであるのがそもそもですが、これが日本企業のIT人材を取り巻いている構造的な問題の1つです。

ビジネスを牽引するIT人材に求められるスキル

言うまでもなく価値創造型のIT人材は、ユーザー企業にとって自社に競争優位をもたらす最も重要な財産にほかなりません。特に今日のようにデジタルトランスフォーメーションと呼ばれる変革が叫ばれる中で、IoT、AI、RPA、ブロックチェーンなどのテクノロジーを駆使した新しいビジネスやサービスの創出を牽引していく知識やスキルを持った人材は、唯一無二の存在となる可能性があります。いったん流失してしまうと、同等の能力を持つ人材は、なかなか見つけられるものではありません。

その裏付けとして、多くのユーザー企業の間にIT人材の不足、特に「質」の不足が深刻化しており、「優秀な人材が採用できない」「定着しない」といった問題が顕著にあらわれているのです。特に中堅・中小企業のIT部門の現場に目を向けると、優秀な人材の確保がますます困難な状況となっています。

加えて、今後重要になるのはAIなどの先進技術だけではありません。先述のIPAの調査によれば、今後増加していくIT業務のうち、「セキュリティ」を上げる企業も多く見られました。正しいITの知見を持った人材は企業の成長だけでなく企業の安全など「守り」の面からも依然と重要であり続けます。いずれにしても、高度化するITに対応できる人材の獲得は急務なのです。

全2回 最良なIT人材の確保のために、いま持つべき姿勢と考えとは

《第2回》課題解決型のIT人材を獲得するために、重要な仕組みとは?

《第1回》 デジタルトランスフォーメーション。これからの時代に必要なIT人材とは?