情報システム部門が社内に向けて、最適なIT環境を提供して運用していくためには、優れたITサービスマネジメントの実践が欠かせません。もちろん、この重要性は今に始まったことではありませんが、ITツールおよび情報システム部門に求められる役割が変化する中で、改めて今後あるべきITサービスマネジメントの姿について考えてみたいと思います。

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守りのITから攻めのITへのシフトが加速

企業にとって最も重要な経営資源である「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が加わってすでに久しく、あらゆるビジネスでITシステムは不可欠のツールとなりました。そしてテクノロジーの進展と共にITシステムは、RPAやAIの導入など、ますます高度化・多様化しています。

この大きな流れの中で、現在の企業に強く求められるようになったのが「SoE(Systems of Engagement)」やガートナーの提唱する「モード2」と呼ばれるタイプのITシステムです。

従来からの基幹システムに代表されるITシステムは「SoR(Systems of Record)」や「モード1」と呼ばれ、定型的な業務を効率的かつ迅速に処理することを目的としたいわば“守りのIT”でした。これに対してSoEは顧客やコミュニティとの新たな関係性を構築するもので、企業の新たな価値創造の源泉となる“攻めのIT”と言えます。

もちろんSoRの重要性は、今後も変わることはありません。しかし近年では最新テクノロジーを巧みに利用して既存の市場を破壊し、席捲していくデジタル・ディスラプターと呼ばれる企業が台頭するなど、ビジネスを取り巻く環境が激変しています。そうした中で企業が競争力を維持し、他社との差別化により収益を確保するためのツールとしてSoEに注力していく必要があります。情報システム部門としても、こうした新しいタイプのシステムに備えることは、今後に向けて極めて重要な要件となっています。

サイロ化されたIT活用を防止せよ

とはいえSoEの導入は、企業に多くの混乱をもたらす場合もあります。

従来のSoRについてはほとんどの企業で情報システム部門が責任を持ち、導入(構築)から運用まで一貫して対応してきました。これに対してSoEは、業務部門が主導して導入するケースが増えているのです。個別にITベンダーと交渉し、スクラッチ開発やカスタマイズ、インテグレーションなどの手間をかけなくても、必要なアプリケーションをクラウドから簡単に調達できる環境が整ったことでそれが可能となりました。もちろん、ビジネス環境の変化に対応するための武器を迅速に手に入れて体制を整えるという意味で、これは必ずしも間違った判断とは言えません。

ただし、こうしたシステム導入を野放しにしてしまうと、会社としてのガバナンスがまったく効かくなってしまう恐れがあります。複数の部門が似たようなアプリケーションをそれぞれ別のクラウド事業者から導入し、お互いにどんな活用を行っているかわからない、またデータもつながらないというサイロ状態に陥ってしまうのです。

もちろん、こうしたサイロ化は部門間に限ったものではありません。システムが情報システム部門の管理下におかれていても、導入が容易なものはツールの乱立をもたらしやすく、その後の運用負荷にダイレクトに響いてきます。

自社に競争力をもたらすためには、単に新しいソリューションを導入するだけでなく、複数のシステムがつながり、それを利用して組織の壁を変えてすべての社員が相互にコラボレーションをしがら新しいビジネスを創出していく土壌を築いていく必要があります。

その中でサイロ化されたITシステムでは、変革で求められるソフトキャピタルを強化することは不可能です。全社最適の観点からすべてのユーザーに対して高品質のITサービスを提供するという方針のもと、クラウドを含めたシステム運用管理の在り方を見直していかなければなりません。

全2回 RPA・AI導入が盛んな今、最新のITサービスマネジメントとは

《第2回》 改めて振り返るITサービスマネジメントの重要性

《第1回》RPA・AIなど、多様化・高度化するITシステム